「自分の身一つ、腕一本」
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さてこれまで見て来たように、現代日本社会では生活するためには必要最小限度の現金収入が必要だ。
それを手に入れるためには、働かなくてはならない。頼りになるのは、自分の身一つ、腕一本だけである。
ではどうやって収入を得るのか。それは「雇用市場」である。
ではこの「雇用市場」とは何か。以下でちょっと考えてみよう。
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なお世の中で生計を立てる方法は、別段これに限らない。独立自営でも個人事業主でも会社経営でも自由業でも構わない。
だがここでは「サラリーマンのための」と銘打っている訳だ。従って考察の対象はサラリーマン、つまり企業に雇用されて給与生活を送る方法に絞っていることをお断りしておく。
現代日本の社会環境
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さて既に述べたように現代日本社会は資本主義社会だ。では、その資本主義社会とは何か。
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因みに予めここで念の為お断りしておくと、資本主義社会なんぞと書いたからと言って、ここでは社会批判をするつもりも、その打倒なぞを唱えたりしているつもりもない。
現代日本社会は資本主義社会であるのは、事実の問題だ。それ以上でもそれ以下でもない。
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ここで述べているのは、特定の社会の分析でもその正否でもない。社会に対して個人がどのような態度をとるべきなのかを問題にしているのだ。
従って現代日本の社会を取り上げているのは、あくまでも個人の環境としてである。この点誤解の無いようにお断りしておく。
利益追求原理
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さてこの資本主義社会とは、謂わば「金儲けがしたい」という「物欲」が渦巻いている社会である。
だがその物欲が原動力となって資本が集積される。個人個人では不可能な、大規模投資が可能になる。また技術革新が促されてテクノロジーが進歩する。その結果、この社会での生活はそれ以前では思いもよらなかったような内容と水準にまで至る。
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もちろん人間の活動なのだから、この社会も正負の両面を生む。
現代の我々は、もはや誰も薪と牛車と鋤や鍬だけの社会で生きている訳ではない。だがその一方では、環境破壊や貧富の偏りなども同時に生じる。これも事実の問題である。
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このように現代日本社会を動かしているのは「物欲」だ。
この原動力となっている動機を、仮にここでは「利益追求原理」と呼ぶことにしよう。
商品化原理
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さてこの資本主義社会とは「利益追求原理」をその原動力としている。言い換えれば「利潤の極大化」を目的として、資本が無限の運動を行っている社会だ。細かいことを言えば「利潤」つまり額の極大化ではなく「利潤率」の極大化だという人もいるが、ここでは結局は同じことだ。なぜか。
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資本主義社会では、社会の中の万物には「値段」がつく。その尺度はもちろん「貨幣」つまり「カネ」だ。資本主義社会では、価値は「値段」即ち「カネの量」であらわされる。しかもその対象は森羅万象あらゆる万物に適用される。
言ってみれば、前述の「物量基準型」価値観の権化のような社会である。たとえ極大化の目的が利潤額であろうと利潤率であろうと、この「物量基準型」価値観は共通だ。この意味では同じことなのだ。
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このように資本主義社会では、あらゆる存在に値段をつけて売買の対象にしてしまう。
これをここでは仮に「商品化原理」と呼ぶことにしよう。値段をつける目的は、商品を比較するためだ。比較のために「値段」と言う共通尺度が必要になるのだ。
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ではなぜ比較するのか。
もちろんそれは「最も得な」売買をするためである。買い手は価格と比べて「最もお得な」買い物を選ぶ。売り手は「最も得な」売り方を目指す。従ってこの「商品化原理」の動機は、先ほどの「利益追求原理」である。
市場化原理
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これらの「利益追求原理」と「商品化原理」。この二つの原理が根本的な原動力となって社会を動かしている。
この両輪の原理をここでは仮に「市場化原理」と呼ぶことにしよう。
「雇用市場」とは
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さて前述の「市場化原理」によって「値段」がつけられる対象は、農林水産物、鉱工業製品など、実体物だけとは限らない。人間様の提供する無形物つまりサービスも対象となる。
当然労働も対象だ。つまり市場で売買される存在となる。
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まあ細かいことを言えば、「労働」という「行為」が商品化された結果、「労働力」という「商品」になったとされるのだが、その「商品」が売買される市場が「雇用市場」なのだ。即ち「労働」に対して「市場化原理」が適用された結果として生まれているのが「雇用市場」だと言えよう。
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従って資本主義社会で「メシを食う」ためには、自分自身に「値段をつけ」て、自分の「労働力」なる商品を「買って」貰わなければならない。
そのために自分を「売ってくる」のが、この「雇用市場」である。
雇用市場のメカニズム
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さてこの雇用市場には、実は下記の三つのメカニズムがある。即ち
① 需給の変動
② 市場での必要価値
③ 市場自体の有為転変
である。これはいったいどういうことか。以下に順次述べてみよう。
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なお以下では「需要と供給」などの経済学上の用語やグラフを用いるが、これらはあくまでも説明を視覚化するためのイメージとして使用する。経済学の視点から説明を加えているのではないので、この点予めお断りしておく。雇用と賃金の関係や雇用市場における需要と供給の均衡など、経済学上の説明をお求めの方は別途専門書等を参照戴きたい。
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また説明の中での個人や企業の行動は、説明の為の仮想モデルである。実在の個人や企業とは一切関係ない。この点予めお断りしておく。