4)「分かれて住みましょう」

「分断」は「共存」と言えるのか

  • なるほど、この「分離棲み分け」論的な主張は一見もっともだ。
    同質性だろうが多様性だろうが、どの集団もその独自性を維持する権利はあることだろう。
  • また、他集団に競争を挑むのも挑まないのも、同様にその集団の自由だ。

  • だがそのために相互の分離と棲み分けを計画するとなると、無条件と言う訳にはいかない。
  • このすぐ後の「補足です」で示した各計画案ごとに、それぞれ条件をクリアすることが必要だろう。

 

相互断絶は必要か

  • さてここで、このすぐ後の「補足です」に示したような各条件が、いよいよクリアできたとしよう。
  • だがちょっと待った。よく考えてみて戴きたい。
    こんな相互移住と棲み分けなどは、本当に必要なのだろうか。

  • 「集団の独自性を維持する権利はあるはずだ」というのは、なるほどそれは結構だ。
  • だがその権利行使の為に、なんで他集団の移住が必要になるのか。

  • 自分たちの集団の純粋性なら、自分たちで守れば済む話ではないのか。
  • 他集団と競争するのも同じことだ。競争したければ自分たちで勝手に挑めばよいことだ。

他人の負担は必要か

  • 「自分たちの」純粋性を守るために、なぜ他集団やその個人に対して、「出ていけ」とか「どいてくれ」とか「あっちへ引っ越してくれ」などと、強制や干渉が必要になるのか。
  • 自分たちの文化を自分たちだけで維持することもできないのか。
    他者に負担を強いなければ、なぜ維持出来ないのか。

  • それは「自分たちの文化を、自分たちでは守ることもできない」ということなのだろうか。
    それなら「ムラ社会」の方こそ、他者の負担に依存した「甘ったれ」た「わがままな」集団なのではないのだろうか。


【補足】「分離棲み分け」論の前提条件

もし仮にムラスタン人とワカスタン人とで「分離棲み分け」論を実行するならば、それには「案」として以下の通り、(A)(B)(C)のいくつかのパターンがありうる。

 (A) 独立退去案 

  • ムラスタン人だけで純粋社会を構成したいのなら自由だが、その際は、他集団に負担も不利益ももたらさないようにしなければならない。
    移転や移住などの負担や不利益を、ムラスタン人の都合で他集団だけが一方的に被るのはおかしい。
  • ムラスタン人だけで純粋社会を構成したいのなら、現状社会から退去して新社会を構成する。
    身一つで出ていく。
    現状の社会資源はそのまま残置しておく。
  • こうすべきではないのか。

 

 (B) 相互退去案 

  • それが嫌なら、ムラスタン人も他集団も、現状社会から同時に退去するしかない。
  • ただし、既存の社会資源は平等に分割することが必要となる。
    人口比あたりの資源賦存量を均衡させるため、既存の社会資源を人口比に応じて比例配分するのだ。

  • ただしこの同時退去の場合であっても、その実行には両社会の合意が前提となる。
  • 片方の社会だけが全員の総意で社会分割に同意しても、残りの社会はそれを拒否できることにしなければならない。
    双方の社会が同意して初めて分割することにする。
  • そうでなければ相互対等とは言えない。多数決の暴力になるだけである。

 

 (C) 相互交換案

  • 上記のように同時退去する場合、自集団の移住先が、他集団の退去跡地である場合もあり得るだろう。
  • つまり居住地を一部交換するわけである(図)。

  • だがこの場合でも、移住に関する負担は下図の通り対等とは言えない。
  • この場合、移転者の絶対数が対等だから、特段の補償措置は不要と考えるのか。
    それとも相対的な負担率が異なるから、負担率の大きな方の集団、つまり少数派に対して何らかの補償措置が必要と考えるのか。
  • この補償内容とその要否も、もちろん両集団で事前合意が前提となるのは言うまでもないことである。

【この補足の項、終わり】