6)取るべき達成経路

層別分類と達成経路

  • 前記の方法で人生を層別分類すると、「物量基準型」の人生モデルに於いて取るべき達成経路は明らかである。
  • 前掲図に矢印で示した通り、(ア)から(イ)を経て(ウ)へ向かう経路である。次図の表に一覧して示す。
  •  このような層別分類と達成経路を設定することにより、前記のような問題は解消する。
    つまり「人によって同じ満足度を得られる物量値は異なる」という問題である。
  • この層別分類に従えば、少ない物量で満足している人生は「安住層」若しくは「茹でガエル」なのであり、上記のような達成経路に従って努力しなければならない。
  • ここにおいて
    「人生でどんな物量値をどれだけ獲得できたとしても、本人が満足していればそれでいいんじゃないですか」
    などという主張を却下することができる。そんな主張に対しては、「安住層」や「茹でガエル」などいう叱責と叱咤が可能になるからなのだ。

達成経路の変動

  • なお、繰り返しになるが、本人の属性値の取捨選択次第では、帰属母集団が変動する。帰属母集団が変動すると、今度は基準値も変動してしまう。
    すると、たとえ本人の物量値と満足度が同じままであっても、基準値の変動により本人の現在位置も変動してくることになる。
  • つまり上図の層別分類の位置が変わり得る。本人の層別分類が変わると、それに応じて今度は取るべき達成経路も当然変わることになる。

 

物量値の基準変動

  • ちょっと図示してみよう。
    上図の左側の図では、人生Cは「勝ち組」である。物量値(x3)も満足度(y3)も、それそれ基準値(x0)と(y0)を上回っているからだ。

  • だがここでもし物量値の基準値が(x0)からグラフ右側つまり大きい方へ(x1)までソフトしたとしよう。
    すると上図の右側の図の通り、人生Cは「勝ち組」から「現状満足派」に分類が変わってしまう。
    人生C自体は、物量値(x3)も満足度(y3)も何ら変わっていない。変わったのは基準値の方だけだ。

  • するとどうなるのか。
    人生Cのご当人は、自分が①「勝ち組」だったと思っていたら、あにはからんや、なんと②「現状満足派」に過ぎなかったという訳だ。
    基準値以上の物量値を獲得し、勝利感を満喫していたのだと思っていたら、実はそれは「茹でガエル」「安住層」だったというのである。

 

満足度の基準変動

  • この物量基準の変動に加えて、更に満足度の基準も変動したらどうなるのか。
  • 前掲図で、もし満足度の基準値が大きい方へ、(y0)から(y1)までグラフ上方にソフトしたとしよう。前掲図の左側の図から右側の図への変化だ。
    すると人生Cは、②「現状満足派」から③「出遅れ組」に分類が変わってしまう。
    人生C自体は、物量値(x3)も満足度(y3)も何ら変わっていない。変わったのは基準値の方だけだ。

  • するとどうなるのか。
    人生Cのご当人は、自分は実は②「現状満足派」なのだと聞かされてびっくりしていたら、こりゃどうだ。
    あにはからんや、なんと今度は③「出遅れ組」に格下げである。てっきり基準値以上の満足度を得ているものと思っていたのだ。
    ところが実は、世の中に比べてその満足度は乏しいものだったのであり、本当の自己位置は「負け組」だったというのである。

達成経路のやり直し

  • 既に見たように、この人生モデルでは取るべき達成経路は自己位置の層別分類に因って決まる。
    自分は「勝ち組」と思っていたのに、実は「安住層」または「負け組」だったというのでは、達成経路をもう一度やり直しなくてはならない。
  • つまり統計の基準値の取り方次第では、達成経路のやり直しを迫られるということもあり得るのだ。

基準値変動の要因

  • これまた既に述べたように、このような基準値の変動には次の(ア)と(イ)の二つの要因がある。

(ア) 帰属母集団の属性規定による変動
(イ) 社会状況の時間経過による変動

  • 前者(ア)については既に一部述べた。
    自己の帰属する母集団を、どのような属性で切り取るのかによって、そもそも母集団が異なってくるためだ。
    従って当然のことながら、母集団ごとに統計値の分布は異なる。
    となると、平均値なり中央値なり最頻値なり、その母集団における基準値も異なる。
  • 従って自分の獲得した物量値なり満足度が、ある母集団では基準値以上であるのに、別な母集団では基準値以下であるという事態があり得る訳だ。
    平たく言えば「上を見たらきりがない」ということである。

  • 後者(イ)は、たとえ同一母集団であっても、時間経過によって社会状況が変わり、したがってその母集団における基準値が変動する場合である。
    自分は同一の物量値なり満足度を維持しているのに、いつのまにかそれが世の中の基準値以下になり、取り残されてしまっている、という事態である。これが「格差拡大」とか「負け組」とか「落ちこぼれ」などとして、昨今の巷間で恐れられている事態なのかどうかは知らないが。
  • いずれにしろ上記の(ア)と(イ)の両方とも、自己位置が他者の動向次第で左右されるという原理には変わりはない。 

「他律性」の評価

  • このように自己位置が他者の動向次第で左右される結果、達成経路も他者の動向次第で左右される。
    前記の通り、いったん達成したと認識した経路も、他者の動向次第では何度でもやり直しになる。
    これをここでは仮に「他律性」と呼ぼう。

  • このような「他律性」による変動をどう評価するのか。
    「他人次第なのでは、やっていられない」と否定的に評価するのか、「達成経路に際限は無くなるが、しかし不断の努力を重ねることになるので良いことだ」と肯定的に評価するのか。
    それは各個人の価値観次第である。

【補足】達成経路の逆行



  • 因みにもしも仮に、前記の達成経路を逆行するとしたら、どうなるのだろうか。それは次図の表の通りだ。前掲図と照らし合わせてご覧戴きたい。
  • もちろんこれは「物量基準型」の人生観を取らない場合である。このような場合については以降順次述べていく。

【この補足の項、終わり】