5)結局うつの「原因」は何なのか

脳内物質の不足か

  • 皆さんは「うつ病になる原因は、脳内のセロトニンという物質が不足して、云々」という情報は耳にしたことがおありだろう。これは所謂「モノアミン仮説」という説明だ。

  • わが政府筋の見解はどうなのだろうか(「働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト『こころの耳』」http://kokoro.mhlw.go.jp/about-depression/002.html 厚生労働省委託事業として一般社団法人日本産業カウンセラー協会が受託して開設するサイト)。

  • なるほど、ここにも「『セロトニン』や『ノルアドレナリン』といわれるものは、人の感情に関する情報を伝達する物質である」「これらの物質の機能が低下し、情報の伝達がうまくいかなくなり、うつ病の状態が起きていると考えられています」と確かに書いてある。

 

なぜ不足するのか

  • だがこれは文字通りの「仮説」でしかない。うつ病患者の脳内に必ずセロトニンやノルアドレナリンなどの不足が発見されるとしよう。
  • だがある人はペットが死んでも不足はしない。一方、ある人は不足してペットロスに陥る。なぜなのだろうか。その説明がない。
     
  • 結局、なぜセロトニンやノルアドレナリンなどが減少するのかのメカニズムは、未解明なのだ。
  • 従って、このセロトニンやノルアドレナリンなどの不足は、うつ病の原因ではなく寧ろその結果なのではないのだろうか。それらの不足の原因は、どこか別にあるのではないのか。

 

投薬の目的

  • もしかしたら、うつ病の体験者の方にはこんなご経験があるかもしれない。
    寝つきが悪いと訴えれば入眠剤が処方され、眠りが浅いと言えば睡眠薬、気分の変動が激しいと訴えれば精神安定剤が処方される、という経験だ。
     
  • ちなみに、これらはみな対症療法である。寝つきの悪さ、眠りの浅さ、気分の変動などの症状は、他の何らかの原因による結果なのだ。それらの症状を惹き起こした原因を直接解消するためではなく、結果としての症状に対処するための投薬なのだから、対症療法である。

  • だとすると、セロトニンやノルアドレナリンの不足に対処するための投薬療法も、やはり対症療法なのではないのだろうか。結局病気のメカニズムは不明なのだ。

 

目的の認識

  • だがうつ病関連の情報を集めると、必ずと言っていいほどこのモノアミン仮説が出てくる。
    また、街を歩いて目に入る心療内科や精神科などのうつ病クリニックは、この仮説に基づいて投薬療法を行うところが殆どだろう。
     
  • 従ってそこでの投薬療法には「うつ病の発症メカニズムは未解明です。ですが取敢えず対症療法として、当院では投薬療法を行っています。それでも宜しければご来院下さい」という前提があるはずなのではないのかと思う。
  • だが、そのような断り書きを掲げているところは、どこかにあるのだろうか。

 

 

メカニズムの認識

  • これは、なぜなのだろうか。察するところ、医師など治療側の関係者としては

      ①患者に無用の不安を与えてはいけないと考えている
      ②自分たちには自明のことなので、取り立てて言わないだけ

    ということなのかもしれない。
     
  • だがこのイラストのように「病気のメカニズムは不明なら不明だと、はっきり明言してくれた方がかえって安心する」という人だって、いないとは言えない。
  • また、そのように明言する医師も、現にいないわけではない。
  • 例えば「ツレと貂々、うつの先生に会いに行く」を見てみよう(細川貂々・大野裕共著。朝日新聞出版。2011年)(注)。

  • 共著者の精神科医・大野裕氏は、ご承知の通り所謂「認知行動療法」の日本における第一人者と呼べる人である。母校の大学教授を経て、国立精神・神経医療研究センターで認知行動療法センター長を歴任している。
    精神科医としては社会的に一定の評価を得ている専門家だと言えよう。

  • その専門家として大野医師はこう言っている。
    病気自体の「原因やしくみが完全に解明できてるわけではない」し、「薬の効果のあるなしはやってみないとわからない」し、うつ病とは結局何なのかは「はっきりわからない」のだと(前掲書p.19・p.48・p.18)。
     
  • まさに「ないない尽くし」のネガティブ表現ばかりだが、もちろんここではそれを問題視しているわけではない。
  • また、ネガティブな内容を明言していることも問題視しているわけでもない。逆に、このような内容が一般的には明言されていないことも、やはり問題視しているわけでもない。

 

(注)【表紙画像引用元:朝日新聞出版】http://publications.asahi.com/ecs/tool/cover_image/?image=15404.jpg)

 

一般社会側の認識

  • 繰り返しになるが、問題なのは一般社会側の認識なのだ。

  • 既に書いたように、一般社会は「からだの病気」に対する現代医学の驚異的進歩に慣れきっている。だから「こころの病気」に関しても、早く治りたい一心からそこに勝手な期待を読み込んでしまう。
     
  • もちろん病気になったからには一刻も早く治りたい心情は当然だ。
    しかしだからと言ってそれが反動としての焦りと動揺を生み、無用の悪循環へ繋がるのでは問題なのだ。
     
  • 現代の医学は、うつに対して何が出来て、何が出来ないのか。
    医師など治療側の関係者が取り立てて言わない部分も含め、それを予め事前認識しておく。

  • それが過剰期待を防止し、結果として悪循環を回避することに繋がるのではないか。それがここでの考えである。