2)「うつは薬じゃ治らない」(すごろく図⑤~⑦)

  • この節のタイトル「うつは薬じゃ治らない」には、少々説明が必要だ。
    従ってこの一句も、わざとカッコ書きの中に入れてある。
  • 所謂「コッホの原則」ではないが、例えば細菌感染症のような「からだの病気」の場合であれば、病因となっている病原菌が必ず存在する。イラストに描いた通りだ。

  • 当該の病原菌に対しては、これを撃退するために抗生物質をはじめとした抗菌剤が投与され、病気の原因を直接消滅させる。

  • 細菌感染症のような「からだの病気」の場合、これが投薬療法の目的となる。
    (なお、イラスト中の病原菌名と抗菌剤名は、著者の見聞の範囲内でわかりやすそうなものを挙げた。病原菌名も抗菌剤名も対応順に挙げているわけではないので、ご注意お願いしたい)。 

  •  だが「こころの病気」であるうつ病の場合は、「うつ病菌」などという病原体は存在しない。
  • だからうつ病の場合の投薬療法の目的は、病原体の撃退ではない。抗うつ剤をはじめとしてうつ病の治療に使われる薬は、直接病因を消滅させるものではない。

 

  • 体験者の個人的な感想であることをあらためてお断りして述べると、うつ病の投薬療法の目的は、「気力を回復するための補助手段」である。
    風邪薬のコマーシャルではないが「諸症状の緩和」ということなのだ。
     
  • これが、カッコ書きに入れた上で「うつは薬じゃ治らない」と述べた理由である。 
  • 次図のすごろく図⑤~⑦には様々な診断名や薬剤名、診断法名が出てくるが、これらはあくまで例示であり、全ての網羅ではない。また一方で、うつ病患者にこれら全部の薬剤名や診断名が関係してくるというわけでもない。
  • 著者が、これまで心理関係全般で見聞したことのある薬剤名や診断名などを、例示のために列挙したものである。
     
  • 既に述べたように、患者は何とか自分の治療の手がかりを得ようとして、自分でも様々な情報を集める。言うなれば素人の生兵法なのだが、その結果、頭の中は耳学問で一杯の「門前の小僧」状態になる。
  • すごろく図⑤~⑦は、謂わばこの情報過多状態を示したものである。従ってここは、あくまでこのような意味での例として受け取っていただきたい。 

  • さて、休職しての療養開始にあたっては、休職する際に診断書を書いて貰った医師と、投薬療法の医師は大抵同一であると思う。
  • したがって休職しての療養は、先ず投薬療法が手始めになるものと思う(すごろく図⑤)。

  • だが中には、なかなか治らないという焦りから、投薬してもらう薬の種類を変えてもらうか、或いは追加してもらう人もいるかもしれない。後述の通り、かく言う著者も投薬追加をしている。
  • ここがすごろく図⑤から⑤´に当たる。
     
  • 更には、同様の焦りから、受けた診断名に不安を感じる人もいるかもしれない。確かに「からだの病気」の常識に従えば、診断が間違っていれば治らない。

  • となると、今下されている診断名は正しいのかどうか、自分の「本当の」病名は何なのか、「正しい診断名」を求めて探し歩くことになるかもしれない(すごろく図⑥から⑥´)。
  •  これは診断法についても同じく言えることと思う。うつの診断法の中心は所謂「問診」である。場合によっては心理テストを受けることもあるかもしれないが、血液検査やレントゲンなどの所謂「客観検査」(物理的化学的数値を測定する検査方法)は、全くと言っていいほど無い。 

  •  唯一(と思うが)最近になって登場した診断法に「光トポグラフィー検査」(巻末の用語説明参照)というものがある。
  • だが、あくまでもこれは、問診の補助手段という位置づけである。それも、うつ病と躁うつ病の分別を目的としている。
  • この二つの疾病では投薬する薬剤の種類が異なってくるので、これを分別するためだ。従ってこの検査法も、うつ病の治り具合とか原因が分かるというものではない。

  • そこで「これらの診断方法で本当に十分なのか。もっと適切な診断方法があるのではないか」と考えて探し求める場合もあるかもしれない(すごろく図⑦から⑦´)。

  • これらすごろく図の⑤´・⑥´・⑦´では、目下かかっている医師に変更や追加を申し入れる場合だけとは限らない。
  • 医師そのものを次々と変えながら、追加や変更を求めて⑤´・⑥´・⑦と渡り歩く場合もある。
  • これが所謂「ドクターショッピング」である。

【補足】投薬療法についての体験(著者の場合)

 

  • SSRI(セロトニン選択的吸収阻害剤)の投薬療法開始から二年後、負荷軽減のために内勤職へ異動してもらった。

  • だがどういうわけか、そこでも二か月に一回くらいの頻度で「その言い方はなんですか」のような些細なことで激昂して、定期的に職場で口論することがあった。

  • これはどうもおかしいと思い、SNRI(セロトニン及びノルアドレナリン選択的吸収阻害剤)の追加処方を医師に要望した。
  • ひたすら医師にお願いして、なんとかSNRIの処方も追加してもらった。不思議なことに、こうしてSSRIとSNRIの両方を服用するようになってから、上記のような無用の口論はぴたりとやむようになった。

  • これは、本人の認識としては、投薬追加の効果があったものと理解している。まあもっとも、まさかと思うがこれは所謂「プラシーボ効果」の可能性も、理屈の上では皆無ではない。
  • しかし「うつは薬じゃ治らない」とは書きながら、結局著者の個人的な結論としては、必ずしも投薬療法を否定しているわけではない。これは、この個人的な体験もあってのことである。
  • もちろんこれら上記は、あくまでも著者個人の主観的な感想である。この点、重ねてお断りしておく。

  • もっともその後は結局投薬療法も止め、SSRIもSNRIも含めて薬は一切服用せずに療養することにした。これについては後述する。

【この補足の項、終わり】