0)うつの「ヤマ場」は四つある

(「すごろく図」の概要)

  • さて、それでは以降本章では、このすごろく図の説明に入る。図中の丸数字①~㉗の各段階を、いくつかの部分に区切りながら丸数字の数字順に説明していく。
  • ちなみにこのすごろく図の中には、下図に破線で囲った通り「ヤマ場」とよべる場面が四か所ほどある。
  • そこで「すごろく図」の概要を大づかみするために、各段階の数字順説明に入る前に、この四つの「ヤマ場」について説明する。

(ア) 第一のヤマ場  (図中丸数字⑤~⑦:診断から投薬まで) 

  • うつで休職して最初に突き当たるヤマ場である。診断法、診断名、投薬された薬剤の種類などについて、一度で納得が得られれば問題はない。
  • だが回復時期の展望が見えない不透明感や、一刻も早く復帰したいという焦りから、所謂「ドクターショッピング」に陥りやすい場面である。 

 

(イ) 第二のヤマ場  (すごろく図丸数字⑩~⑫:治療法選び) 

  • 診断と投薬の次は治療法の取捨選択である。投薬療法だけで回復すれば問題はない。
  • だがこれも同様の焦りから、それ以外の治療法を模索することが多いことと思う。既に述べたように、治療法の取捨選択は本人の自己判断次第となっている。
  • 従って、ここでも謂わば「治療法ショッピング」になりかねない場面である。 



(ウ) 第三のヤマ場  (すごろく図丸数字⑬:病因についての自己認識) 

  • 既に述べたように、うつは本人が内心で抱いている価値観や価値が、何らかの挫折や乖離や喪失に直面することが原因となって生じる。

  • 従って、自分が認識していなかった内心の価値観や価値とは一体なんだったのか、自己究明しなければならない。
  • それを意識的に自覚してはじめて、自分の周囲の環境と調和するための行動が可能になる。つまり自分の今後の人生をどうするのかが決まる。
  • もちろんその中には、元の勤務先の元の職場にそのまま復帰する選択肢も当然含まれるし、そうでない選択肢も様々にあり得る。

  • このような本人の内面と外部環境との矛盾が、それほど深刻なものでなければ、問題はない。自己究明にもそれほど難儀することはないことだろう。すごろくの「上がり」に向かって、比較的早期に次の段階に進めることだろう。

  • だがうつの病状が深刻だったり、再発を繰り返しているような場合にはそうではない。恐らくその矛盾は相当根が深いものなのだ。
  • この自己究明は、自分の今後の人生をどうするのかが決めるためのものである。従って最終的には「自分は人生をどうやって生きるつもりなのか」という命題に突き当たらざるを得ない。
  • この命題に関しては第4部で独立して説明する。

 

 

(エ) 第四のヤマ場  (すごろく図丸数字⑲~㉑:復職してからが本番) 

  • 病気になった場合は誰でも当然だが、早く回復して元の健康な生活に戻りたいと思うものである。

  • では回復した証拠とは何か。骨折した場合は、ギプスや松葉づえが要らなくなったことか。内科系の疾患で入院した場合は、退院か。
  • サラリーマンがうつで休職した場合は、一日も早く職場に戻りたいことだろう。元の健康な生活とは、元の職場でバリバリ仕事をしていた生活のことだと思うからだ。

  • では復職できたら病気が回復した証拠として考えていいのだろうか。だがそれが大違いなのだ。

  • 既に書いたように、うつが回復したのかどうかは、一定期間後に再発がなかったことで初めて判断できる。つまり事後的にしか判断できない。
  • ということは、復職はその判断の開始時点であり、完了時点ではない。うつの治療においては、ある意味では復職してからが本番と言えるのだ。

  • ところが往々にして、誰もが元の健康な生活に戻りたいと焦るあまり、上述の各種のヤマ場もそこそこに、遮二無二復職を目指す。主治医の診断書をもらい、産業医の判定を受け、もとの職場に出社できた時点で、うつとの付き合いは終わりと思ってしまう。

  • だがそのように「上がり」を焦ることによって、かえって何度でも再発してしまう可能性があるのだ。 
  • だからと言って、復職後にあわてていくら諸事万端気を付けようとしても、ダメである。復職は、それまでのすごろく廻りの積み重ねの結果なのだから。

  • まさにこの復職後の時期に、それまでのすごろく廻りの如何が問われる。この意味で、復職してからが寧ろ本番と言えるのだ。