1)趣旨のまとめ

 

本書は、一般社会側の認識形成に重点をおいている。目標として形成すべきと考えている認識とは、概略以下の通りである。

 

一般社会の過剰期待

  •  現代の社会は「からだの病気」に関する医学の進歩に慣れきっている。このため一般社会側には、無意識の前提がある。
  • 即ち「どんな病気でも必ず原因は解明されており、そのメカニズムも把握され、百パーセント有効な特効的治療法も存在している(はずである)」という前提である。従ってうつ病の情報に関しても、この前提に基づいた無意識の偏った期待をしてしまう。
  • だがこの一般社会側の認識とは異なり、「こころの病気」であるうつ病は、目下のところ原因もメカニズムも未解明であり、従って百パーセント有効な特効的治療法も未確立である。
  • 即ち、現状は一般社会の期待と乖離している。現状と比較すれば、一般社会側の認識は過剰期待なのだ。実はこのことが、一般社会側に不安と焦燥感を生じ、うつ病の回復までの期間を無用に長期化させている原因である。 

 

備えあれば憂い少なし

  • うつ病は防ぐことはできない。だが備えることはできる病気である。

  • うつ病は「誰でもなる病気」である。自分が発病するのかどうか事前に予測は不可能であるし完全な予防策もない。発病するかもしれないし、もしかしたら一生発病しないかもしれない。我々一般社会は、人生におけるこのようなリスクを認識しておく必要がある。

  • 現代の医学は、うつに対して何が出来て、何が出来ないのか。そして自分たち一般社会はうつ病に対して何を予期しておき、実際にはどのように対処すればいいのか。それらの問題点は、一般社会側が予め事前に認識しておかなければならない。

  • その事前認識が過剰期待を防止し、結果として悪循環と回復までの期間の無用の長期化を回避することに繋がる。

  • では、上記のように一般社会にとって必要な事前認識とは何か。本書ではそのような論点を幾つか取り上げ、著者なりの整理と説明を試みる。

以上