選択は本人次第
-
うつから治って復職できるのが、本人も一番円滑な選択肢だし、企業としても歓迎すべき結果である。
だが復職それ自体が目的なのではない。病気から治るのが目的なのだ。従って、ここで主にサラリーマンを念頭において書いていたとしても、それは「サラリーマンを続けるための」「同じ勤務先に復職するための」という意味ではない。
-
うつから回復した結果として、復職するのかサラリーマンを続けるのか。それは本人の価値観と決断次第である。
だから人生の選択肢として選んだと言われれば、どちらを選んだとしても、それ以上他人からはとやかく言えない。
-
従ってここでは、選択肢としての転職も転業については、否定も肯定もしない。一方では推奨も助長する意図もない。
だが選択としてあり得るのならば、説明の対象としては取り上げておかねばならない。それ以外の他意はない。この点予めお断りしておく。
「許せる退社」と「許せない退社」
-
だが家庭に入るためとか家業を継ぐためとか、その他個人的な事情で中途退社する人だっている。
これは構わないのだろうか。もちろん構わないはずだ。そのために依願退職と言う制度がどの企業にもあるはずだ。
-
だが、そのような中途退社だって、本人の価値観と決断次第だ。人生の選択肢として選んだと言われれば、依願退職だってそれ以上他人からはとやかく言えないはずだ。
-
ではなぜ、うつから回復した結果として転職や転業をして貰っては困るのだろうか。
-
本当に会社のやり方が正しいと確信しているのならば、どうか。「我が社のやり方についていけない社員は、どうぞどんどん辞めてくれ」と胸を張って公言できるはずである。
だがそれではブラック企業と区別がつかない。どこの企業も自社がブラック企業だとは思っていないことだろうし、そんな公言をしているわけでもないだろう。
-
とはいえ、それではなぜ家庭に入るためや家業を継ぐための退社は許せても、うつ病からの回復の結果として退職するのは許せないのか?
無意識の前提
-
その背景には、無意識にこんな前提があるのではないのだろうか。
「会社のやり方や考え方は間違っていない。だから、うつになる社員の考え方が間違っているのだ。」
という先入観である。うつになるのは「その社員の考え方に『歪み』があるからなのだ」という考えである。
-
だが、そもそもこの「歪み」という表現からして一種の価値判断を含んでいる。
では「歪み」が有ると測定するモノサシはどちらが持っているのか。もちろん会社の方だ。社員ではない。
-
つまり「歪み」などという表現を平気で使える人は、「自分(たち)は正しい」という前提を、無条件に信じて疑わない人である。
うつになった社員に対して、その考え方の「歪み」が原因だと考えている人は、従って「会社は正しい」と無条件に信じて疑わない人である。
-
この前提から見れば、家庭に入るためや家業を継ぐために退社するのは、あくまでも個人的な事情である。会社のやり方や考え方を否定しているわけではない。「だから構わない」という認識になるのではないのだろうか。
「臭いものに蓋」
-
では、うつから回復した結果として転職や転業を選択された場合についてはどうなのか。
それは「会社に対して問題点を指摘したことになる」だと解釈しているのではないのだろうか。
-
ブラック企業のようにそれを一笑に付すのならば、どうか。自社のやり方や考え方に、絶対の自信があるということだ。
だがそうでないのならば、会社のやり方や考え方に絶対の自信があるわけではないことになる。どこかに問題点や改善の余地があるということを自覚しているということなのだ。
-
しかし、いざその問題点を指摘されるかもしれないという段に至ったら、果たしてどうなることだろうか。
「社内に問題点や改善の余地があるということは認識している。だが『会社は間違っていない』という建前だけは守りたい。そのためには、問題点や改善の余地があるということを、あからさまにされては困るのだ」
というのでは、どうなのか。単に「臭いものに蓋」をしているだけのことである。それでは確かに現状維持は可能だろう。
だが、そこからは何の進歩も改善も生まれない。
改善のきっかけ
-
従って、ここでの正しい言い方はこうなることだろう。
「本人の熟慮の結果として転職や転業を選択するというのなら、会社としては引き留めることはできない。もしその選択がうつの結果としたら、如何にも残念なことだ。うつは社員本人にとっても会社にとっても損失なんだ。せっかく縁があって入社して貰ったのだから、願わくば元通り復職して貰いたいと思っている。だから最終的に選択する前に、是非こうして貰いたい。復職のために会社のやり方や考え方に問題点や改善の余地があるというのなら、是非それを指摘してくれたまえ。出来るだけの努力はするから」
という言い方になるのではないのだろうか。